裁量トレードとシステムトレード | 林知之


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ヒモを結ぶのに苦労している子どもに「頭を使え」と言ったら、頭のてっぺんを押しつけた。おじいさんに「赤ちゃんを見ていてください」と頼んだら、ぐずって泣き叫ぶ赤ん坊をジッと見ていた。自宅で食べ歩きしている息子に「座って食べろ」と注意したら、その場で床にしゃがんだ。言葉通りで正しいようでも「誤りである」と判定される“日常生活あるある”ですね。

でもトレードでは、言葉通りにルールはルール、感情を切り離してハッキリさせないといけない場面ばかりです。数字を基準にして、しゃくし定規に行動すべきことが多いので、数式でアプローチするシステムトレードが優れています。

資金稼働率についても、ルールを定めておくことが求められます。
しかし、自分で決めたルールでも、つい破りたくなることがあります。

ダマシの連続で資金が大きく減る、あるいは心が折れて継続できないなんて状況を避けるために「資金稼働率は70%」と決めていても、買いポジションをつくりながら驚くほど下げてしまうと、「ここは一発、残り30%を出動させようか……」なんて具合に、いつもと異なる対応をするケースがあります。

余裕を生むための30%について出動が正解かどうか──「当たるかどうか」の観点ではなく、思いつきの特別ルール発動ならば“アウト”、事前に決めていたならば“セーフ”というのが、ひとつの判定方法でしょう。

裁量トレードでは、こういった点があいまいになりがちです。
しかし同時に、創造性を生み出す部分でもあるのです。

仮にアウト判定の思いつきでも、そういったことこそが利益を生むアイデア、手法を改革していくための大切な素材、あるいはトレードの姿勢を一変させる大いなるきっかけだったりするからです。

車が停止線を30センチ越えただけで、信号無視や一時停止違反のキップを切られたら納得できません。でも、新幹線の発車時刻を3秒過ぎてドアが閉まったら、感情的には複雑ですが、JRに文句は言えないでしょう。

対するトレードでは、整理しきれないほど多くの条件の下で、悩み、迷い、苦しみ、混乱しながら、自分ひとりで難しい議論を進めなければなりません。でも、ひとりで考えるからこそ、オリジナリティのある発想が生まれるともいえます。

裁量では、どこまでが「適正な裁量」で、何が「ダメな思いつき」かが重要です。
システムでは、自分で決めたルールを守りながら、「何が盲点か」を考えることが大切です。そして、それぞれに一長一短があるとしかいえないのでしょう。


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