・ウクライナ戦争終結へ。日本は何を望む? | 矢口新

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☆ウクライナ戦争終結へ。日本は何を望む?

ウクライナ戦争が終結への大きな一歩を踏み出した。米国が多額の支援を続けてきたウクライナ戦争は、米共和党議員たちの間では「バイデンの戦争」だとの見方があった。そのバイデン政権が倒れたことで、米国はウクライナ支援の打ち切りに動くことになった。

もともとウクライナは米国や西側諸国の支援がなければ戦争を続けられないが、西側諸国には実のところ支援を継続する財政的な余裕がなくなってきている。また、この戦争が彼らの言うようなバイデンの戦争だったとすれば、以下のように米国の目的は概ね達成できている。

1、ロシア軍の弱体化、
2、スウェーデンやフィンランド加盟に見られるNATOの拡大、
3、天然ガスでロシアと結びついていた日本やドイツなどとの関係断絶、
4、米国の天然ガスや武器の西側諸国への販売増加などだ。

西側諸国とって、これ以上の戦争継続は財政的にも苦しいだけでなく、核戦争の危機を高めることにもなりかねない。実際、ウクライナ戦争で軍の弱体化が進むにつれて、ロシアは核兵器の運用基準を緩和してきたからだ。

では、ウクライナ戦争終結とは、どのような形を意味するのだろうか?

先週、米のヘグセス国防長官は「ウクライナが2014年以前の国境に戻るのは非現実的だ」と述べ、「幻想的な目標を追い求めることは戦争を長引かせ、さらなる苦しみを引き起こすだけだ」と指摘した。

また、ロシアがウクライナのNATO加盟を越えてはならない一線だと捉えているので、ウクライナのNATO加盟も現実的ではないとも明言した。加えて、終戦後の平和維持軍もNATOの枠組みでは実施することはないと強調し、米軍をウクライナに派遣することはないとも述べた。

このことはロシアが実効支配しているクリミアや東部諸州の「独立」をウクライナが受け入れさせられることを意味する。また、ウクライナがNATO加盟をその憲法で義務付けたことがロシアの本格侵攻を産んだにも関わらず、ウクライナのNATO加盟は現実的ではないと拒絶されたのだ。

加えて、米国はウクライナ問題から事実上手を引くことを示唆した。その理由は上記のように米国の目的は概ね達成できている上、これ以上の継続は財政負担だけでなく、成果よりもリスクの方が大きいと判断したからだ。この判断については私も同感だ。

また、米国の軍事的な最大の関心は太平洋地域に移っており、アフガニスタンや中東からの米軍の引き上げを進めていたが、イスラエルが中東での戦火を拡大していることで、中東に釘付けにされた状態となっている。そこに、ウクライナに利権を持っていたバイデン政権が倒れたことで、ウクライナへの関心はもはや大きくないと言えるのだ。

人道面は口実だ。何故なら、ガザの方がはるかに大きな人道上の危機となっているが、米国はイスラエルへの軍事支援を緩める気配がないからだ。


ところで、周知のようにロシアがウクライナ侵攻を開始したのは2022年2月のことだ。では、ヘグセス氏の言う2014年以前とはどういうことなのだろうか?

事実関係をたどれば、2014年以前のウクライナ政府は親ロ派とされるヤヌコーヴィチ大統領の政権だった。同政権は腐敗し、大統領は私利私欲を貪っているとして抗議運動が起きていた。

2013年12月、キーウ(当時のキエフ)での反政府ユーロマイダンデモ参加者の前で、米のマケイン上院議員が演説し、この後で抗議運動が暴力的になったとされている。当時のバイデン副大統領も何度もウクライナを訪問していた。

2014年1月28日に米ヌーランド国務次官補とパイエト駐ウクライナ米特命全権大使がヤヌコーヴィチ政権崩壊後の新政権人事の協議をしていたとする電話会談が、後になって暴露される。

2月22日、反政府武装勢力によるクーデターで、親ロ政権が崩壊、ヤヌコーヴィチ大統領がロシアへ亡命、親米政権が成立した。

2月23日、クリミアのセヴァストーポリの住民集会でキエフからの如何なる指示にも従わないことを決議、独自の「人民市長」を選出した。セヴァストーポリにはロシア最大の海軍基地があり、住民のほとんどがロシア系。

ちなみに、クリミア自治共和国は、ソ連時代の1954年にロシアからウクライナに移管。約6割がロシア人、ウクライナ人は2割強、残りはコサック人。

3月16日に行われたクリミアの住民投票では、ロシア編入支持が96.6%と圧倒的多数を占め、翌17日にはクリミア議会はウクライナからの独立を宣言、ロシアへの編入を承認した。

ロシア系住民が多数を占める東部諸州が続々と独立を表明。それを認めないウクライナ政府と内戦状態に入った。ロシアは同年に創設された民間の軍事組織ワグネルを東部諸州に派遣した。

5月にはハンター・バイデン氏が、ウクライナの民間天然ガス会社の役員に就任。

ウクライナ政府とワグネルが支援する独立軍との内戦は膠着状態のままで、 2019年2月、ウクライナ憲法116条に「NATOとEUに加盟する努力目標を実施する義務がウクライナ首相にある」という趣旨の条文を追加。

親米政権になってもウクライナ政府の腐敗は止まず、19年5月にゼレンスキー氏が経済再生や汚職への取り組みなどを公約に掲げて大統領に当選した。ちなみに、ゼレンスキー政権下でも閣僚や軍の腐敗が何度か報道された。

2021年10月、ウクライナが東部の紛争地域で独立軍への攻撃にトルコ製ドローンを初めて使用。ロシアは紛争をエスカレートさせる恐れがあると警告したが、ゼレンスキー大統領は「領土と主権を守っている」として攻撃を継続。

22年2月3日にはトルコ企業が開発した攻撃ドローンに関して、ウクライナでの生産を進めることでトルコ側と合意した。

ロシアは2月21日に東部諸州の要請を受け、同地域の独立を承認。24日にはウクライナへの本格侵攻を開始した。


米国がロシアとウクライナ戦争終結への協議を始めたことで、世界から大きな地政学リスクの1つがなくなる可能性が出てきた。それは世界が平和に少なからず近付くことを意味する。それにも関わらず、日本の政治家やメディアの論調の大勢は、ロシアの暴力をこのような形で許してはならないというものだ。平和より、出口のない戦争を続けろと言わんばかりなのだ。

出口がないと言うのは、米のヘグセス国防長官が「ウクライナが2014年以前の国境に戻るのは非現実的だ」、「幻想的な目標を追い求めることは戦争を長引かせ、さらなる苦しみを引き起こすだけだ」と述べているように、それはロシアが決して、核兵器を使ってでも、受け入れることができないだろうことだからだ。

バイデン政権によるウクライナ工作は理解できる。ロシアは天然ガスなどの取引を通じて、自国の同盟国であるはずの西欧や日本に近付き過ぎた。西欧がノルドストリーム2の開通でロシアへの依存を更に高め、日本がサハリン計画などで経済的な繋がりが深まれば、NATOなどの軍事同盟が形骸化し兼ねない恐れすらあったのだ。

また、近い将来の北極海航路の開通はユーラシア大陸を1つにする。米国は他の大陸で蚊帳の外となる。加えて、北極海沿岸の軍事基地はロシアが圧倒している。トランプ大統領がグリーンランドを欲しがるのはそのためだ。

一方で、ロシアがもともと自国の領土であったクリミアを手放すことは、ロシアへの憎悪の塊のようなゼレンスキー政権に現地の大半を占めるロシア人を置き去りにすることになる。また、自国最大の海軍基地を手放し、地中海へのアクセスを失うことになる。南欧へも、アフリカへも、中東へも海路では行けなくなり、黒海沿岸の自国領土の防御も放棄することになる。

また、ロシア連邦は他民族、他宗教国家だ。ウクライナのような同民族、同宗教の国が、武力クーデターで海軍基地を支配下に納め、ロシア正教会からウクライナ正教会を新設して分離させ、ロシアの国力と威信を大きく低下させることができるとなれば、ロシア連邦もそれほど遠くない将来に分裂する可能性が出てくるのだ。

それでも良いではないかとするのは、単なる「ロシアいじめ」ではないか? それで北方領土を返せと言っても、「非現実的で、幻想的な目標を追い求めること」になってしまう。相手の立場を理解しないで、交渉事が進むはずがない。


プーチンの野望、バイデンの戦争などと言っても、全く合理性や説得力のない私利私欲では誰もついてこない。昔の日本の軍部やナチスの行いにも言える。ネタニヤフのパレスチナ人大虐殺や、ハマスの人質拉致ですらそうだ。同様に、決して認めることができない所までロシアを挑発し、ウクライナ国民の多大な犠牲の上に成り立っているゼレンスキーの正義感も法律的には正しい。NATO加盟への努力は同氏の就任前から憲法で定められていた。

問題は間違いに気付いた時、副作用や犠牲が大きくなり過ぎた時、どこで止めるかではないか? いい加減にナンピン買いを止めて、損切りすることではないか? ウクライナの終戦を望まない人たちも同様で、大義や法律を盾に、事実上の思考停止となっているのではないか?

日本の歴史上でも頼る相手を間違えたり、誤解や、権勢欲、近親憎悪などから親子や兄弟でさえ殺し合うようなことが数多くあった。米国がウクライナを見捨てるとすれば、ゼレンスキー大統領や親米勢力は頼る相手を間違えたことになる。ウクライナでの2014年以降の内戦や、2022年以降のロシアとの戦争は、どちらかが一方的に悪いというようなものではないのだ。

起きてしまったことは残念だが、これ以上の犠牲者を出さない可能性が出てきた今、米ロの和平案を歓迎すべきではないのか?

 

 


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