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☆ここからが難しくなる日銀の金融政策

2025年1月24日(金)、日本銀行は政策金利を0.25%引き上げ、0.5%とした。主要な目的はインフレの沈静化だ。もっとも、利上げをしてもインフレ率と比較した日本の実質金利はマイナスだ。このことはまだ利上げ余地があることを示唆している。

日銀のホームページには「日本銀行は、物価の安定と金融システムの安定を目的とする、日本の中央銀行です。」と明記されているが、高金利環境は銀行などの利ザヤが大きくなることを鑑みれば、もう1つの目的にも適うことになる。

このことは、これまでの超低金利環境、ましてやマイナス金利政策は金融システムの安定を脅かしてきたことも意味している。

利上げは、2024年3月に、8年2カ月間続けていたマイナス金利(-0.1%)政策を解除して+0.1%に、同年7月に0.25%に引き上げてからのもので、この1年ほどでしっかりと金利のある(異次元ではない)正常な世界に戻ってきた。

ちなみに、政策金利が0.5%でいるのはリーマンショック直前の2008年9月以来のことで、0.5%を超えたのは、1997年3月の0.51%以前にまで遡る。

1997年度は名目GDPが543兆円と、2016年度の545兆円(計算方法の見直しで30兆円上乗せされた)で更新されるまでの日本の経済規模がピークだった年だ。

バブル期まで加速的に成長していた日本経済は1989年度の3%の消費税導入以降は減速、5%に引き上げた1997年度からはマイナス成長となった。これは見方を変えれば、消費税の悪影響を緩和するために低金利を続けてきたとも見なせる。そうした経済成長に与える影響を鑑みれば、消費税率10%の現在の環境下ではこれ以上の利上げはかなり高いハードルであることが分かる。

とはいえ、家計支出に占める食料品支出の比率を示すエンゲル係数が既に30%を超え、エネルギー関連支出と合わせれば優に4割を超えている主因がインフレであることを鑑みれば、高インフレを放置することは一般家庭の崩壊に繋がりかねない。その意味では、利上げをこの水準で止める訳にはいかない。


利上げ当日の金曜日に発表された12月の消費者物価指数は、前年比+3.6%と、11月の+2.9%から加速した。キャベツなど生鮮野菜が大幅に値上がりした。

生鮮食料品除くコア指数は前年比+3.0%と、+2.7%から加速した。政府の電気・ガス代補助がいったん終了したことでエネルギー価格が上昇し、全体を押し上げた。

生鮮食料品とエネルギー除くコアコア指数は+2.4%と、同水準の伸び率だった。

これで分かるのは、それぞれ0.6%ずつのインフレ率押し上げ要因となっている生鮮食料品とエネルギー価格の上昇が加速しているので、エンゲル係数が更に高まり、エネルギー関連支出も増えていることを示唆していることだ。

これらの値上がりには円安も寄与している。植田総裁は24日の会見で「過去と比べると為替変動が物価に影響を及ぼしやすくなっている面がある」と述べたが、日本は食料やエネルギーの自給率を下げ、海外依存を高め続けてきたからだ。ここで、利上げは円安抑制の意味合いも持つことになる。

ここに住居費などの生存必需品目を加えれば、多くの人たちは生きていくだけで精一杯の状態で、こうした高インフレを放置することは一般家庭の崩壊に繋がりかねないのだ。また、そこまで行かなくても、こうした購買力の低下は必需品以外の内需を押し下げ、景気悪化の要因となる。


一方で、住宅価格の上昇も続いている。一例では、関西2府4県で2024年に分譲された新築タワーマンション(20階以上)の平均価格が初めて1億円を超える見通しとなった。10年前は4000万円台で、2倍強になった。

中古でも2024年7-9月期の東京23区の築20年以内の中古物件平均価格は1億1077万円だった。これらの高騰の背景にも円安がある。海外マネーの流入だ。

米国では、こうした住宅価格の上昇に加え、金利上昇、火災保険料の上昇が三重苦となり、持たざる者たちの住宅取得の夢はもはや叶わぬ夢となりつつある。

では、持てる者は資産価値の上昇を喜んでいるかと言えば、火災保険料の上昇と固定資産税の上昇が年金世帯の家計を圧迫し始めている。買い換えようにも三重苦は重く、また、多くの家計は資産価値の上昇を背景にしたクレジット枠の拡大で、多くの借金も抱えている。

日銀の利上げは円安や住宅価格上昇の歯止め要因にはなるものの、急速な値下がりは景気悪化に繋がりかねず、また高止まりでは、日本の住宅市場も三重苦に至る可能性を示唆している。


また、賃上げの広がりも利上げの理由の1つだ。大企業の賃上げ率が33年ぶりに高水準となった24年の春季労使交渉に続き、日銀は25年も同じくらいの賃上げが広がる可能性が高いとみているのだ。

一方で、企業が人件費や原材料費の上昇を価格に転嫁する行動も定着してきた。これは政府による賃上げの働きかけが更なるインフレ率上昇に繋がっていることも意味している。日銀は「賃金と物価の好循環が引き続き強まっている」としているが、賃上げできる企業に勤めている人たちとそれ以外の人たちとの所得格差が拡大していることを意味している。


高インフレ、特に食料品やエネルギーのインフレは一般家庭の崩壊に繋がる可能性があるので、絶対に止めなければならない。賃上げで救われるのは一部の恵まれた労働者たちだけで、救われなかった者は賃上げが誘発するインフレ上昇でさらに苦しむことになる。また、円安やインバウンド消費で潤う者も一部に過ぎず、ここでも恩恵を受けられない者はそれらが誘発するインフレでさらに苦しむことになる。その意味では、インフレ抑制のための更なる利上げは必要だ。

とはいえ、高金利は政府を含め、負債を抱える者たちの負担を高めることになる。政府はこれまで以上に利払いや償還のために、既に限界的な借金をさらに積み上げることになる。また、現状では単年の財政黒字さえ見込めない。何故なら、今の税制は負担できる高所得者層の負担を軽くし、これ以上の負担増には耐えられない層からばかり税収増を期待しているからだ。ある所から取らずにない所ばかりつついても財政赤字は埋まらない。

ビリオネアの激増は偶然ではない。貧富格差を助長する税制が作ってきた。すべての富裕層は社会システムを利用してその富を築いてきた。つまり、日本だけではないが、1980年代以降の政府は富裕層の社会システムのフリーライドを許している状態なのだ。

これ以上の利上げは必要だが、税制改革とのセットでなければ、負担に耐えられない可能性が高い。例えれば、手術に必要な体力がないのに、大手術を行うようなものではないか?

 

 


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