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☆格差ビジネス
その経済が世界一と呼ばれた頃の日本は、また一億総中流時代とも呼ばれていた。その後の失われた30年とは、中間層がどんどん薄くなっていく時代だった。その為、中間層をターゲットにしていたビジネスの客層は薄くなり、安売りビジネスの客層が厚くなった。一方で、富裕層は拡大していったので、富裕層相手のビジネスも盛況となった。
例えば、米国でも中間層にとっての夢の国、「ディズニーのテーマパーク」が一般的な家庭にとって遠い場所になりつつある。チケット代が大きく値上がりしているだけでなく、特定ホテルに宿泊する人だけが購入できるプレミアパスや待ち時間なくアトラクションに乗れるパス、シャトルバスの有料化、VIPツアーなど、どんどん「富裕層だけの夢の国」となっている。「プレミアパスに運営コストはかからない。ほぼ純利益になる」からだ。
同社のテスタ社長は「ディズニーは上位40%の収入の米国人世帯を対象に価格設定やマーケティングをしているが、実際には上位20%に重点を置いている」とする。上位20%の人々が毎年旅行に費やす金額は、下位80%の合計とほぼ同じだとされているので、効率的に収益が上がるからだ。
このことは、ディズニーのテーマパークが一般的な「若い人たちの夢の国」でもなくなりつつあることも示唆している。学生は重い学生ローンを抱えているからだ。
過去30年間で大学の学費は68%余りも上昇、全米トップクラスのエリート大学で4年間の学位を取得するには、平均40万ドル近い費用がかかるようになっているという。つまり、より多くの学生がさらに高額な学生ローンを組むことを余儀なくされている。
一方で、若い働き手は上の世代よりも収入や貯蓄が少ない傾向にある。ミレニアル世代が22-24歳のときに手にした収入はインフレ調整後で5万1852ドルだったが、現在の22-24歳が働いて得る収入は4万5493ドルと、上の世代の88%でしかない。
加えて、20代前半のクレジットカードの平均残高は2023年には2834ドルだった。これは、2013年にミレニアル世代が同じ年齢で抱えていた残高をインフレ調整後の金額で比較すると、26%多いことになる。さらに、カードローン金利が一部で20%を超え過去最高水準を記録しているため、膨れ上がった残高の返済はかつてないほどの水準に膨れ上がっている。
またパンデミック以降、米国の家賃は高値を更新し、19-23年に30%も上昇した。一方で、同期間の賃金上昇率は20%にとどまった。
持ち家は一段と手に届きにくくなっている。19年9月から23年にかけ住宅は40%値上がりした。加えて住宅ローン金利が数十年ぶりの急ピッチで上昇したため、ここ数十年で最も買いにくい住宅市場となっている。実際に、米国の4世帯中3世帯以上が、中央値の価格帯に入る住宅を購入する余裕がないことが明らかになっている。
とはいえ、ディズニーのテーマパークは依然として「若い人たちの夢の国」であるかのように見える。若い世代の消費は依然として旺盛だ。実際、18年以降上の世代が小売り支出を減らしたのに対し、ミレニアル世代とZ世代はそれぞれ32%、17%も小売り支出を増やしている。
しかし、このうち4分の1以上の人が経済的不確実性を理由に散財したと回答した。こうしたことは、「俺たちに明日はない」かの如くに消費する「破滅的消費」現象だと呼ばれている。実際、Z世代のクレジットカード利用者の7人に1人ほどが限度額に達しており、多くの利用者が支払いを遅らせている。
20代における所得に対する債務の比率は23年に16%に達した。13年の同じ年齢層では12%弱だった。 若い世代の買い物客の中には、消費を控えるのではなく、代わりに新しい形態の与信に頼り購入資金を確保している人もいると見られている。
ここ日本では、食材費の上昇が食卓の風景を変えている。食卓から肉類が減り、安価な食材が増えている。にもかかわらず、3人世帯の2024年8月の食費総額は前年比5%増の9万3130円だった。12月を除いた単月で9万円を超えたのは、00年以降で初めて。消費支出総額に占める食費の割合を示すエンゲル係数は30.4%と統計上の過去最高を記録した。
テレビを見ても、物価上昇のニュースに加え、安上がりな調理法や安価な外食店の紹介番組が激増している。コスパは時代を写す言葉にもなっている。
消費支出総額に占める食費にエネルギーコストを加えると4割を超えるので、他の消費支出を圧迫している。また、食料もエネルギーも輸入に大きく依存しているので、円安になるとますますその割合が高くなる。つまり、ますます他の消費支出を圧迫する。
そのため、中間層をターゲットにしていたビジネスの客層はこれまで以上に薄くなり、安売りビジネスの客層がますます厚くなる。一方で、富裕層は拡大しているので、富裕層相手のビジネスは問題なく盛況が続く。
こうした格差ビジネスは文化的なインフラをも破壊していく。日本が世界に誇る江戸庶民文化は中間層の厚さがもたらしたといっていい。現在の中間層はその時代よりも薄くなってきている。理由は税負担が重くなったからだ。
ディズニーの戦略は、ディズニーだからこそ出来る格差時代のビジネス生き残り戦略だ。ディズニーのような差別化が出来ない他のテーマパークや、動物園、水族館、植物園、博物館、図書館、劇場などは、このままではどんどん閉鎖に追い込まれていく。
閉鎖の要因を挙げれば、財政状況の悪化、施設の老朽化、地域の人口減少、コロナとその対策、インターネットや動画配信サービスの普及などだ。これは過去30年の経済の停滞、アベノミクスとコロナ対策による極端な公的債務の悪化を鑑みれば、抜本的な対策なしには改善しない。
食費にエネルギーコストを加えると4割を超えることが示唆しているのは、日本人は生きていくことだけで精一杯になりつつあることだ。それでいいのだろうか?
その経済が世界一と呼ばれた頃の日本は、また一億総中流時代とも呼ばれていた。その時代と現在の顕著な違いは、当時は所得の再配分を促す税制だったのに対し、今は格差を積極的に拡大させる税制となっていることなのだ。
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