【トレード】マーケットと向き合うということ④ | しがないディーラー

「あなたは常に相場や株価の見通しを誤ることなく見通すことができますか?」

これに「Yes」と答えられる人はいないでしょう。
いるとしたらとんでもない勘違いされているか、神様のような存在なんでしょう。

様々な要素を調べ、分析し、思考し、予測を立てていく。
そして実際にポジションを取り、その後の結果を受け止めることになる。

実際の投資プロセスはこんな感じでしょう。

運用プロセス
①情報収集
 投資判断の基礎となるもの。
 人によってはこれだけを見てればいいという人もいます。例えば、「株価は全ての情報や思考を集約して作られているのでチャートやテクニカルだけ見ておけばいい」というテクニカル重視の人。
 「企業の成長だけを見ていれば、企業価値向上が最終的には株価として評価されるので、それだけ見ておけばいい」というファンダメンタルズ重視の人。
 必ずしもそれはどちらも間違いではないと思います。様々な情報を詰め込み過ぎて、整理も出来ずに思考が混乱し、パンクしてしまったり、変なバイアスかけてしまうぐらいなら、自分が信頼できるものだけを重視し、それにフォーカスして分析やタイミングを計る。それも一つの考え方でしょう。
 ただそれぞれに長所・短所があり、それを理解したうえでリスクマネジメントを適切に行いながらやっていく必要はあるとは思います。

 自分は知ることができるものは全部知りたい派です。ファンダメンタルズも、需給も、テクニカルも大事だと思っています。なぜ市場や株価がそういった動きになっているのか、腑に落ちるまで自分なりに情報を収集し、考察を重ねていく。現在の相場がどうしてそういう動きになっているのかが見えてきて初めて、その後の動きへの予測の確度が上がると思っています。

 テクニカルも大切だと思っています。売買タイミングや負けを認めるべきポイント(ロスカット)、利益確定のタイミングなどを計るうえではとても有用なものだと思っていますし、何度も様々なテクニカル分析をバックテストを重ねたりしながら、その有効性や問題点を研究したりもしてきました。だいぶ昔にはテクニカル分析の連載を週刊誌でやっていた時期もあります。主観でやっているとついムキになりがちな自分の考えを、いったん冷静にならなきゃいけないポイントなどを明示してくれるテクニカルは何度も救ってくれたと思います。
 相場は常に合理的な動きをするわけではありません。その非合理的な動きを相場が示すとき、ロスカットや異常な動きへの対応はなかなか難しいものです。ファンダメンタルズで買っていたら、8月5日のクラッシュは売る理由はないでしょう。そんな短期間でファンダメンタルズに極端な変化が生じるわけもないのですから。そういったときリスクコントロールを行うための一つの指針としては有効だと自分は考えています。

 ファンダメンタルズももちろん重要です。監督の立場になってからは、ミクロのファンダメンタルズを調べることはほとんどなくなりましたが、マクロのファンダメンタルズは今でも沢山のものを見て、自分なりの考察を立てています。

 需給ももちろん重要です。最終的に「株価は需給で決まる」という昔の上司の教えもありましたが、本当にそうだと思います。その需給には業績がよくなるから買いたいという「利益を追求する需要」もあれば、最近では自社株買いという業績を見て銘柄を選ぶという行為とは別視点の「需要」もあります。買いたい、売りたいという人が全て自分と同じ思考で売買を行っているわけではないことも知っておく必要があります。

 自分は儲けたいからいい銘柄を見つけ出して買う。でもどんなに業績がよくても、オーバーバリューまで買われてしまった銘柄であれば、すでに先にそう思った人たちが沢山いて、大量に買いが入ってしまっている。その人たちが次に取る行動は「売り」です。需給バランスやタイミングを計ることもリスク・リターンを適正化するためには必要なことです。誰が買って、誰が売っているのか、今の株価水準をどう評価するべきなのか(バリュエーション)。

 昨日もブローカーのストラテジストの方と夜会食の機会をいただき、マクロ経済や選挙が与える影響など様々な意見交換や学びを得ました。自分の知らないことを知っている方と話せる機会というのは、本当に貴重でありがたいものです。



②分析
 集めた情報を元に分析する。この分析はどちらかというと「現在地」をきちんと整理するために必要なプロセスだと自分は考えています。

 この業績で、この株価水準なら割安なのか、割高なのか。
 経済全体の状況はどうなのか。
 今後の経済カレンダーを見て、マーケットは現在どういう状況に置かれていて、今後何を注意しておかなければならないのか。

 例えば、日本では衆議院選挙が控えていて、米国では大統領選挙が控えている。
 選挙は予測がとても難しいものです。
 当然、将来的な不確実性が高い状況にある。となれば多くの市場参加者はどうするだろう?

 不確実性を嫌い、キャッシュのウェイトを高める。
 不安定化しやすい市場環境。

 「Polymarket Who eill tin the 2024 US Presidential Election」
 では、最近トランプ候補勝利に賭ける比率が急激に伸びました。
 今朝のBloombergの記事では、フランス人トレーダーが4500万ドル(69億円)をトランプ勝利に賭け、この賭けサイトのオッズを大きく動かしたといわれています。最近はこのオッズの動きを受けて市場はトランプトレード再開という動きが出たりもしていました。

 実際にトランプ氏が勝つかどうかは分かりませんが、様々な動きの背景に何があるのか、何が影響を与えたのかを知っておくことも、その後の予測を組み立てていくうえでは重要な要素です。

 個別企業であれ、株価指数であれ、為替や金利、政治、金融政策…様々なものが繋がっています。
その全てを知り、理解し、予測するのは不可能かもしれません(いつの日かAIなら出来るのかもしれませんが)。

 でも「最近この辺なんか妙に強いな」と感じたら、なんでそういう動きになったのか、その要因や背景を知り、現状を分析していくことは「予測」の土台になるものです。
それを知ろうともせず、「感じた」だけで終わってしまう人と、少しでも理解しようと深堀り出来る人とで、数年先には大きな差がついていく。

 若手の育成を始めた頃から、ずっと後輩たちに伝えてきたこと。
 「なぜ?なに?」を大事にしてほしいということ。
 分からないことをそのままにせず、分かるまで調べる探求心。
 常に市場や株価、企業、経済に興味を持ち、納得いくまで調べたいと思える好奇心。
 「なんでだろう?」と常に考え続けること。

 それが成長の土台になります。
 「この銘柄は買いです(売りです)」
 というアナリストの判断をただ聞いて終わりにしない。
 それをただ聞いているだけであれば、自分の思考力・分析力の向上はありません。

 誰かの思考を聞いて終わりではなく、その人がなぜそう思ったのか?
 その人が何を見て、どう考えてその判断を下したのか?

 そこまで聞いて、自分が納得できれば同意すればいいし、納得できなければ自分なりに調べ、分析し、意見を戦わせてもいい。

 集めた情報を元に分析し、現在の状況を把握する。

 この分析というプロセスを、どれだけ緻密に、深く、客観的に、合理的に出来ているかは、その後の予測の基礎になるだけにとても重要なプロセスです。


③思考・予測
 現状が分析できたら、次は予測です。
 多くの場合、②と③は同時に行うでしょうが、まず「現状分析をしっかりやってから予測を立てる」ことの大切さを示すために二つに分けました。ついつい現状分析をおろそかにしたまま、予測、結果ばかりを追い求めがちになる人が少なくないですから。これは経験者でも時にそういう状況に陥る場合があります。

 情報を収集し、現状を分析する。
 そのうえで今後どうなっていくのかを「予測」する。
 ①②がしっかり出来ているからこそ、確度の高い予測ができる。

 この予測はとても危険な行為でもあります。
 ①②がしっかりしている人ほど、陥りがちな罠もあります。
 それは後ほど…。


④ポジション構築
 ③の予測に基づいてポジションを構築していきます。
 ここで大事になるのは、「上がる」と思うから「買い」という端的なものじゃなく、リスクとリターンを常に評価しながら、市場の状況や株価を見極めたうえでタイミングも重要になってくるということです。
 また金額が大きい運用を行う場合、一度に思ったポジションを全部買ったり売ったりするのではなく、段階的にそれぞれのタイミング、リスク・リターンを評価しながら構築プロセスを進めていくということです。

 リスク・リターンを「期待値」という人もいます。 

 いい企業、いい銘柄だから必ず上がる…というわけではありません。
 いい企業であったとしても、先に書いたようにそれまでに大量の人が買ってしまって株価がオーバーバリューの状態にあれば、先に買った人たちが売り始めれば下がることもある。
 いい企業であったとしても、市場全体が混乱し、クラッシュするような局面では下がることもある(その局面は絶好の買い場とも思いますが)。

 ポジション構築は「いいから買い」「悪いから売り」という単純なものではありません。

 タイミングというのはなかなか難しいですが、自分は比較的シンプルにタイミングを計る指標としてはテクニカルを用いることが多かったです。特に見ている人が多いものほど、結果としてサポートなどが有効に機能したりもするものです。もちろん決算やファンダメンタルズが大きく変わる局面、経営者が変わるなど、何か大きな変化も一つのタイミングとしてとらえることもできるでしょう。

 また①②③をどんなにしっかりやっていても、間違えることがある。
 実際の株価が想定とは逆に動くことも当然あります。
 だからこそある程度の分散投資も大事なことになります。

 分散には、タイミングの分散と、銘柄の分散があります。
 全ての銘柄においてベストなタイミングが同時に起きるわけではない(8月5日のクラッシュなどはいいタイミングだったかもしれません)。
 全ての銘柄で予測が当たるわけではない。
 だからこそ適度な分散は大事なんです。

 100%の勝率なんて普通に考えたら、絶対に無理でしょう。
 だからこそ確率の勝負に持ち込むことが重要なんです。
 一つの間違いが致命傷にならないようにするために、丁寧に一つ一つのポジションのリスク・リターンを評価し、タイミングを計り、分散も行っていく。

 また実際のポジション構築では、自分自身の損益状況、リスク許容度、収益化までの期間(トレーディングスパン)…etc

 様々な要素を考慮したうえで、合理的に行っていかなければなりません。
 戦略よりも戦術的な側面が強いところかもしれませんが、安定的なリターンを積み上げていくために、とても重要なポイントです。


⑤運用結果
 そこまでやったらあとは市場の審判を受けることになります。
 そのプロセスが正しかったのか、間違っていたのか?

 ここで大きな差が出ます。
 先に書いた「予測」がしっかりしていると自覚している人ほど、過信や妄信に陥りがちで負けを認めるという行為ができなくなりがちです。
 ①~④までのプロセスがしっかりと出来ていれば、本来ならばある程度の勝率は維持できるでしょう。
 しかし、どんな運用者でも間違えることがあるし、思った通りに市場が動く保証なんでどこにもない。

 だからこそ、そのポジションが自分の予測とは違う動きをしてしまっているとき、どうするべきかが重要になってきます。

 「グリップ力」

 銘柄をホールドする力があることはとてもいいことです。
 「損小利大」
 という言葉があります。
 損を最小化し、利益を最大化する。

 利益を最大化するためには、このグリップ力が大事になってきますし、そのグリップ力は①~④のプロセスをどれだけしっかり出来ていたかに依存します。

 ただ「損小」の部分とは相反する面があるのです。
 グリップ力は大事です。
 ただそれは自分の判断を妄信し、過信することと同義ではありません。
 常に自分の判断に対して疑問を持ち、それとは違う動きになったときに①~③のプロセスをやり直してその要因や背景を納得いくまで分析し、思考する。リスクを持ち続けている(=ポジションを保持し続けている)以上は、常に何か見落としていなかったか、自分の予測に疑問を持ち①~③のプロセスをやり直し、場合によってはロスカットやポジションの調整を行う必要があるのです。

 このブログでも何度か書きましたが、「だろう」ではなく「かもしれない」が大事になってくるのです。
 完全に違う動きになっているのに、意固地になったり、やせ我慢をすることがグリップ力ではありません。
 常に自分の判断に対して問いを投げ続け、①~③のプロセスに立ち戻り、それでも保持していいといえるだけの理由があれば保持すればいい。でもなんで自分の想定と逆に動きになっているのかを理解できいないまま、根拠もなしに突っ張り続ければ、一回の判断や一つのミスで致命傷を負うことになります。

 人間は誰しも、自己肯定バイアスというものがあります。
 自分の判断を間違いと認めることは嫌なものですし、常に自分の耳障りのいい情報や材料、意見ばかりに耳を傾けがちになる。
 他者から見れば、なんでこんな異常なものを信じているの?と言いたくなるようなものでも、実際に信じている人の耳には入らない。人間は自己否定が苦手な生き物ですから。

 だからこそ相場を見通す目以上に、自分自身を客観視する目も大事になってくるのです。

 自分の都合でリスクを取っていないか(損を取り返したい、大きく稼ぎたい)?
 負けを認めたくないから、意固地になっていないか?
 損益のコントロール、何を取りにいって、どういうリスクを取っているのか、リスク・リターンのバランスが取れているか?
 負けを認められなくなり、ロスカットができなくなっていないか?
 自身の運用を客観的に評価できているか?

 それが出来ていない人は、どんなにいいセンスや思考をしていても、結果としては損益がブレブレになり、大したリターン残らないか、損失だけ残して終わることになります。

 当たり前のことですが、損失には限度があり、利益には限度がないからです。
 負けたときにはリスク許容度の限界に達し、ロスカットを強いられるか、破産する。勝ったときのことしか想定せず、リターンしか目に入らない人、自分の判断に対して過信してしまう人は、どんなにいい銘柄選定スキルを持っていても実践では危険は運用者にしかなりません。

 だからこそ相場が自分の想定とは違う動きをしたとき、それは自分にヒントを与えてくれているのかもしれないという姿勢で、なぜそういう動きになっているのかを再度考える。それに合わせることが出来ている人に聞くのもいい。
違う思考を元に、自分と逆のポジションを取っている人が多数だからこそ、自分の想定とは逆に動いているのですから。

 相場と向き合っていくうえで意地やプライドなんてなんの役にも立ちません。
 相場に対してだけは常に謙虚に。
 相場が発してくれるシグナルに常にアンテナを張り、違う動きや意見にこそ耳を傾けること。
 そのうえで再思考してなお問題ないと思えるならば引っ張ればいい。
 それはもちろんリスク許容度の範囲でコントロールされたリスクであることが前提ですが。
 自分の許容リスクをきちんと理解し、そのうえで自分の判断に対して常に客観的な再評価を繰り返し、損小利大をどこまで追求できるか。


相場は常に合理的な動きをするわけではない。
自分は常に間違いを犯す。
そして相場は常に正しい。
それがどんなにおかしいと思う動きであっても、その動きの理由や要因が必ずある。
それを自分が見えていないだけのこと。
それが分からないときリスクを無理に取る必要はない。

市場を俯瞰すること。
市場はやりやすいときもあれば、難しいときもある。
相場は自分の都合では動かない。

負けたときには負けただけの理由がある。
その再評価なしに、取り返したいという自分の都合でリスクを振り回さない。
負けたときにはいったん手を止め、何を見間違えたのか、何を見落としたのか、なぜ判断を間違えたのかを客観的に見直す。
相場は逃げないのだから。焦らなくてもチャンスは必ず来る。

常に相場に対して謙虚に目を向け、耳を傾ける。
相場との対話がちゃんと出来ていて、自分を客観視できていて、ちゃんと合理的な運用が出来ていれば、自ずとリターンは積みあがる。
常に自分を客観視する。慢心がないか、過信はないか、決めつけていないか、感情的になっていないか、意固地になっていないか。
常に自分の判断に疑問を持ち、再分析・再評価を行い続ける。
相場を見る(客観視)目と同じように、自分自身を見る(客観視)目はとても大切なものなのです。

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