私が勤務するサンワード貿易にて、「クラック・スプレッド取引」の取り扱いを開始しました。
「スプレッド取引」というのは、「サヤ取り」「裁定取引」「アービトラージ」「ペアトレード」などという呼び方もあります。
「売り」と「買い」の両ポジションを同時に持つ「ペアトレード」で、「サヤ(価格差)を取る」ことを狙った取引です。
通常の取引ですと「上がる」か「下がる」かで損益が発生しますが、「スプレッド取引」では「価格差が広がる」か「価格差が縮まる」かで損益が発生します。
狙いが「上げ下げ」ではなく「サヤの伸縮」ということから相場観も随分と変わってきますね。
このうち「クラック・スプレッド」というのは、石油の商品間を指します。
日本は産油国から原油を輸入します。
その原油を製油所で精製し、ガソリンや灯油などの石油製品を製造します。
ですのでガソリン価格などは、「原油価格+精製コスト」で決まり、原油とガソリンの価格にサヤは精製コストとイコールです・・・単純に考えれば。
しかし原油には原油の都合が、ガソリンにはガソリンの都合がありますので、必ず単純に価格が決まるわけではありません。
例えば、ガソリンに大量の需要が生じれば(行楽シーズンなど)、「モノの値段は需要と供給」の原則でガソリン価格が上昇します。
そのとき産油国からの原油供給が、地政学的リスクも無くすこぶる順調であれば原油価格は抑えられます。
この場合は、ガソリンと原油のサヤは拡大する可能性があります。
そのときに「この拡大傾向は続く」と見れば、クラック・スプレッドで「買い」(ガソリン買い・原油売り)を、または「この現象は一時的で今後はサヤは縮小する」と見れば「売り」(ガソリン売り・原油買い)を仕掛けるということになります。
もう一例。
冬場は灯油需要が高まります。製油所は灯油を増産します。
しかし原油から灯油を精製すれば、同時にガソリンも増産されます。
そのとき国内の経済活動が不活発でガソリンの需要が少なければ、供給過多となりガソリン価格は押し下げられます。
この場合は、ガソリンと原油のサヤは縮小します。それが行き過ぎれば「精製コスト割れ」という事態がおきる可能性すらあります。
そのときに「少なくとも精製コストまではサヤが拡大するだろう」と見れば、クラック・スプレッドで「買い」(ガソリン買い・原油売り」を、または「いやいや事態は深刻だから、もっとサヤは縮小するぞ」と見れば「売り」(ガソリン売り・原油買い)を仕掛けるということになります。
このケースでは、灯油は需要増、ガソリンは需要減ということですから、ガソリン・灯油のクラック・スプレッドで「売り」(ガソリン売り・灯油買い)も有効かもしれませんね。
また、これは嫌な想定ですが、戦争がおきたとします。
地政学的リスクの上昇で供給不安が生じ、原油価格は高騰します。
原油から精製されるガソリンも高騰します。
通常の取引では、原油もガソリンも「買い」ですね。
しかし、戦争は経済活動を圧迫しますし、また価格高騰は需要を減退させます。
ですのでガソリン・原油の価格差は縮小すると考えられ、クラック・スプレッドでは「売り」(ガソリン売り・原油買い)というトレードになるでしょう。
このようにクラック・スプレッドは原料である原油と製品であるガソリン、灯油などのサヤ、すなわち精製コストをヘッジする石油業者のニーズから生まれたものです。
ヘッジニーズには相対するスペキュレーター(投機家)が必要で、それが一般の投資家の皆さんとなります。
原発停止、円安によるエネルギー輸入コスト増大で貿易赤字が拡大など、日本のエネルギー事情は厳しさを増しています。
そのような折、クラック・スプレッドを開始にはそのような側面もあることを付け足しておきます。
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