金融取引は、意外とカンタンです。
いや、実際には、不合理な面をゼロにするために複雑なカラクリが作られているのですが、例えば私たちが株式市場に参加する場合、カチッと出来上がった仕組みを利用するだけなので、ハードルが低くて手軽なのです。
金融の世界なので、いろいろな裏がある……こんな議論もあるのですが、ごくふつうに利用するときの表面的な部分は、とてもシンプルです。
500円の銘柄があったら、誰が買っても500円です。
セレブが買っても500円、大統領が買っても500円、はじめて参加する学生が買っても500円です。
ネット取引が増えたので、スマホだけで口座を開設して取引開始、みたいな手軽さがありますし、買い物でたまったポイントを利用した「ポイント投資」とか。
もともと誰でも参加できる場だったのですが、さらにハードルが低くなりました。
ところが、手軽さゆえに、思わぬ錯覚が生じたり(予期できたら錯覚は起きませんが)、うっかり落とし穴にはまることもあるのが道理です。こうしたキケンは、初心者にかぎられたものではなく、ベテランでもプロでも陥る可能性があります。
今日は、ブレずに個人的な行動を展開するうえで不可欠な「投資スタイル」を、どのように確立するか──こんな観点で売買を考えてみます。
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守破離(しゅはり)という言葉があります。
日本に古来からある、例えば武道の世界などで、(1)師弟関係のあり方、(2)師匠の教えで技術を習得する過程、を表現しています。
まずは「守」。
とにかく師匠の教えを忠実に守り、ひたすらコピーします。
習字の見本を見てマネをするような、初期の段階です。
誰のやり方にもすばらしい点がありますが、表裏一体の弱点もあります。長所と欠点、どちらもそのまま受け入れる必要があります。
でも、技術を習得すれば、徐々に自分の個性が芽生えます。
「破」は、師匠の教えから少しずつ、応用に移っていく段階です。
最終的には「離」。
ベースにあるのは師匠の教えですが、やり方を完全に自分のものとして確立する段階です。
自分の感覚に合致したやり方で、個性がバランスよく前面に出ます。
現代的に手軽で、情報が豊富──大切なことを覚えたり考える過程(プロセス)をおろそかにしてしまう懸念があります。現代の“あるある”です。
例えば、既存のトレードシステムを利用して売買しながら、自分の見識を深めて技術を高めていくプロセスは、下記のように説明できると思います。
まずは、自分が選んだシステムの、すべてを受け入れます。
最初から難しいことを考えてもバランスが狂うので、欠点が気になっても、すばらしい長所と表裏一体のものとして受け入れるのです。
そんな素直な姿勢で実践してみることで、そのシステムへの理解が深まります。
そして、うまくつかめなかった点や疑問を感じた部分について、しっかり納得します。
「なるほど、こういうシロモノなんだ」と。
こうしたプロセスを経て、やっと応用を考えはじめます。
ちなみに、値動きを判定する数式に不明な点(ブラックボックス)があるものは、おすすめできません。あくまでも「ひとつの金融商品」と捉えて、資金を投じるのは“あり”です。でも、利用を通じて「破」「離」と進んでいくことは期待できません。
いかがでしょうか。
目の前に利益のチャンスがあり、いつでも手軽にスタートできる株式投資で、つい「守」の段階を省いているのではないか……思い当たることがあるかもしれません。