実践者の基準 | 株式投資「虎の穴」

「絶対音感」という能力があります。
音を聞いて、その音の高さ(音高)を絶対的に認識する能力です。
例えば、美空ひばりさんなどが持ち合わせていたとされていますね。

色の感覚というのもあります。
デザイナーが色を見ると、CMYK(印刷に使う4つの色)の配分を数字で想像したりします。

どちらも、確固たる“基準”が軸です。
でも、その基準が錯覚を生みます。

訓練されたパイロットでも、機体の姿勢がどうなっているかを誤認することがあります。
「空間識失調」と呼ばれる状態で、飛行中に平衡感覚を失うのです。
実際、自衛隊機の墜落事故について、空間識失調が原因と判断されるケースもあります。

私たち、売買を実践する者の基準や感覚は、どうなっているのでしょうか。

80年代のバブル相場では、強烈な底上げが起こりました。
末期は、「1,000円未満は無条件で安い」なんて感覚もあったくらいです。
株価が全体的に上がっていく状況で、基準を失ったというか、基準が変化したというか……。

PER(株価収益率)やPBR(株価純資産倍率)といった基準が非常にポピュラーですが、バブル期には、高騰する株価を説明するために、上昇した地価の含み益を算入する純資産倍率「Qレシオ」といったものが考案されました。

でも、下げ相場に入ってしばらくすると、「Qレシオは誤りだった」なんて……実にテキトーなものです。

それに比べて中源線の基準は、「今回は特別」とか「時代は変わった」みたいな、あいまいなものが入り込む余地がなく、カチッとした感じで安心感を与えてくれます。

でも、その基準が相場の先行きを高い確率で当てるかというと、そうではないのが現実です。
中源線の判断基準でも、ストイックに相場を観察する冷静沈着な実践者の感覚でも、相場を読むうえでは、私たちを十分に満足させてくれません。

そもそも、相場そのものがブレまくるからです。
動きがないと感じていたら突然に動意づいたり、上げの勢いは間違いなくつづくと確信したのに急激にしぼんだり……。

私たち人間の感覚はあいまいで、意図しないブレが生じます。
そのかわり、相場の急変に対して機敏に反応することも可能です。


といっても、前述したように「相場そのものがブレまくる」ので、臨機応変に対応しようとするほどに混乱するのが、悲しいかな現実です。

結論がないままダラダラと“嘆き”の言葉をつづってしまいましたが、これこそが相場です。「当てたい」という思いは裏切られ、私たち実践者の悩みは消えません。消えないどころか、際限なく増えていくのです。

相場そのものがブレまくるので、科学的なアプローチが通用しないということですが、それでも、人間のあやふやな感覚よりは、科学的なもの、数値的なものが「基準」として適切でしょう。

値動きをパターン化して判断する中源線は、やはり「軸」として有効です。
ただ、中源線の基準が「ブレない軸」であることが、ある意味、私たちの不満なのです。

こうして順序立てて考え直すことで、「一歩遅れで対応する」ことの重要性を再認識できます。


最初は期待を盛り込んだ理想を思い描きますが、ムチャな部分を外して「現実的な理想」を整えて実践します。

ところが、再びムチャな理想を入れようとしてしまう自分がいます。
ただし、そんな自分こそが、独自の路線を見つける存在です。


この部分を捨てて、ひたすら数式で売買に臨んだり、機械のように動くことを目指すなんて、少なくとも私には想像できません。
 

ブログ一覧に戻る