【マーケット】月曜日の暴落についての考察 | しがないディーラー

月曜日の暴落、正直あそこまでの下落は想定外でした。
需給主導の相場の怖さをまざまざと痛感した一日でしたね。

火曜日の早朝から、自分なりに要因分析や考察を重ねて投資家に向けてのレターを作成しました。
投資家も混乱している状況だろうし、ウチのチームは後輩たちが現場で戦ってくれているので、監督の立場である自分ができることはやろうと早朝にオフィスに行き、レポートを作成し、投資家の方々に送付させていただきました。

あのクラッシュは、いくつかの複合的要因が重なった結果だったと考えています。
ここでは一部を抜粋して、限定的ではありますが、自分なりの考察をまとめてみました。

① これまでの上昇過程での物色の偏りの極端さ
 ざっと計算してみると、年初から7月11日の高値形成時までのTOPIXの上昇のうち56.82%は上位20銘柄(2159銘柄中なの で銘柄数でみると0.926%とごく一部)によって実現されています。


② 個人投資家の信用買い残が積みあがっていた需給環境
 信用買い残高はリーマンショック前の水準に近づくレベルまで高水準に達していました。信用取引を行うような経験値の高い個人投資家だけではなく、新NISAなどもあって個人投資家の買いはかなりの水準に達していたと推察されます。かなり需給的には潜在的なリスクが高まっていたことが見てとれます。  信用残高推移

③ CTAを中心とした派生商品への投機的な運用のインパクト拡大
 これと次の需給的なインパクトがかなり大きかったと推察していますが、CTAやマクロ系、システマティックトレードを行うようなファンドは基本的に個別株ではなく、派生商品を売買してきます。彼らの売買は日本市場の動向に大きなインパクトをもたらすようになりました。詳細の分析はそういった運用者の動向をモニターすることを得意とする専門家にお任せしますが、おそらく6月最終週から、7月初旬に高値を更新する過程で買いあがったのは彼らだったと推察されます。そして彼らがロスカット→ドテンショート→ショート積み上げというプロセスを進めていく中で、かなり過大なインパクトを市場にもたらした可能性は高いでしょう。

海外投資家0809

 上のグラフは週次の海外投資家の売買動向を派生と現物で色分けしたものです。6月最終週からの買い越しのほとんどは「派生商品」で「現物株」への買い越しは限定的でした。昨年4月~6月、今年の年初の買い越し局面では現物株への買いもそれなりに拡大してました。これは重要な違いだと思っています。かなり機動的かつ投機的な投資行動を取りがちなCTAの買いがけん引して指数を史上最高値まで押し上げた一方で、日本株のエクスポージャーを増やしたいはずの中長期性の海外投資家はあまり動かなかった。そして指数が急反転し、CTAがロスカット、ドテンショートへと移行していく中で、現物株への売りはそれなりの水準に膨れ上がっています。

 「CTA」という名前を初めて耳にしたのは2000年代中頃でした。2007年だったかな?自分がまだ現役の先物ディーラーとしてやっていたときに、年初からいきなり日経225ラージで500枚単位の売りを何度も出してくる業者がいた(手口を見ると某欧州系証券)。翌日、翌々日とかには突然買いで連打してくる。特に材料も何もない中でエライ雑な売買をしているようにに見えましたが、二日目ぐらいまではかなり振り回されました。その後、それほど聞かなくなった時期もあったのですが、2014年頃から急激にその存在感が拡大し、市場への影響度が大きくなっている印象です(実際にデータを見てもそのインパクトは様々な投資主体の中でも最大といっていいかもしれません)。自分で蓄積しているデータを元にそれを示すグラフなども作ってはみましたが、ここでの掲載は控えます。


④ 日銀のサプライズ的な利上げとタカ派的な姿勢が積みあがっていた円キャリートレードの巻き戻しを引き起こした
 もう一点、非常に大きな影響を与えたと推察されるのが日銀の政策姿勢変更を受けた円キャリートレードの巻き戻し。欧米中央銀行がコロナ後のインフレと戦うべく金利を引き上げていく中で、一向に動こうとしなかった日銀。拡大する金利差が円キャリートレードの再拡大につながり、おそらくこれもリーマンショック前以来の15年振りといっていい水準に拡大していたと思われます。
 前回の日銀政策決定会合で、為替に対してあまりにも無関心な姿勢を示したことで強い批判を浴びた日銀。同じ轍は踏まない、とばかりに今回はサプライズ的な利上げとタカ派姿勢を鮮明にしました。米国が利下げへのタイミングを計っている状況で、米金利が下げ始めようとしているところでの日銀の動きは、大規模な円キャリートレードの巻き戻しに繋がった可能性が高いと思います。


⑤ 政治的・地政学的リスクの高まりによる買い控え
 トランプ前大統領暗殺未遂事件、そしてバイデン大統領の出馬辞退、ハリス副大統領の大統領候補へと目まぐるしく変化する米国大統領選挙の行方。ロシアとウクライナの戦争、イスラエルを中心とした中東の地政学的リスク、そういった状況も買いを手控える要因としてはあったと思われます。

⑥ チャート上のサポートを割り込み、ロスカットを誘発しやすい環境
 上昇トレンドで、これまで機能していたサポートラインを割り込むタイミングで、テクニカルベースで見てみてもロスカットを誘発しやすいタイミングだった。

⑦ 月曜日というタイミング(欧米投資家にとっては週末の夜間)
 これは日本という地理的に「日出づる国」の宿命かもしれませんが、週初であったことも少なからず影響していたかもしれません。様々な材料を米国市場という分厚い市場が受け止めた後であれば、もう少し冷静な動きをしたと思います。週末などに悪材料が出ると最初に開く規模の大きい市場として売りが集中し、不安心理から歯止めが利かなくなるということはこれまでも何度か起きてきました。



基本的には、様々な複合的要因が重なったこと。ごく短期間に売りの金額が急速に膨れ上がり、需給的な潜在的リスクが大きくなっていた中で、市場を取り巻く環境の不透明感から買いの厚みが薄くなりがちな状況やタイミングで、それを突き破ってしまい、需給の崩壊を招いた。

AIの影響や高速化した市場の怖さは感じましたが、それが主因でクラッシュが起きたわけではないでしょう。あまりの速さに傍観せざるをえなくなった市場参加者は多かったと思いますし、拡大要因の一つではあるかもしれませんが…。

ざっとそんなところかなと考えています。
投資家に向けた作成したレポートの一部を抜粋して要約してみました。



【ディスクレーマー】
 本ブログは、有価証券や金融商品の購入・引き受け、または投資サービスや投資助言の提供をオファー・勧誘するものではありません。

 本ブログでは、信頼できる情報源から得た情報を、正確に記載するようあらゆる努力をしておりますが、当社は、間違い、情報の欠落、あるいは、記載されている情報の使用に起因して生じる結果に対して一切の責任を負いません。

 本ブログの全ての情報は、その時点の情報が記載されており、完全性、正確性、時間の経過、あるいは、情報の使用に起因して生じる結果について一切の責任を負わないものとします。また、あらゆる種類の保証、それが明示されているか示唆されているかにかかわらず、また業務遂行、商品性、あるいは特定の目的への適合性への保証、また、これらに限定されない保証も含め、いかなることも保証するものではありません。

 この資料は、それらに関する勧誘行為が許可されていない地域、または勧誘行為が違法となるいかなる投資家に対する勧誘を目的に構成するものではありません。

ブログ一覧に戻る